大変=愉しみ

saiブランドのオフグリッド事業のフラッグシップである帆船ナイデル。外装のレストアがずいぶんと進行しました。実物を見た人たちから「あのボロボロだった船がこんなになるんだ」など、嬉しいのか悲しいのか分からないコメントをいただくことが多い今日この頃。
確かにこの半年、塗料や木粉まみれになり、夢中でレストア作業に取り組んできたので、見れば分かる成果はやりがいにつながってきました。同時に昔の手仕事のすばらしさには学ぶことが多く、それを再現する「丁寧な作業」を心がけてきました。

言い換えれば、何十年経っても再度「丁寧な作業」を施せば品質が維持できる素材が使われているのです。以前にも書きましたが西暦2000年くらいを境に、新素材と呼ばれる素材が多種多様な分野に投入され、一見、天然素材に見えるフェイク材が世の中に増えました。そして環境性能の名のもと、軽量化が進められ、サーフェスデザインが一般的になり、木材のような「 メンテが必要な面倒な素材」はその使用割合が大きく低下したのです。

この船は写真のように、外装のかなりの割合を木材が占めており、印象は「ウッディー」。
なので人に「ウッディーな船はメンテが大変でしょう?」と聞かれることが多いのですが、返答は「はい。大変です。」
ですがどうでしょう。例えばキャンプ。簡易とは言え、その日に寝るための空間を組み立て、火をおこし、食事を作って仲間と談笑しながらいただく。最高な時間の過ごし方ですよね。スマート〇〇が蔓延る一見便利な世の中で、敢えて不自由を楽しみに、そして人間性を取り戻しにいく行為。そう。大変が面白いのです。
僕にとってのヨットライフは、決してセーリングすることだけではありません。セーリング中も実際に風を受けて帆走(はし)らなければ分からない異音や不具合を探し、修繕しながら帆走っています。寄港地でもできるメンテをし、母港に帰れば不具合を解消したり、改善したり、のんびりと作業を楽しみながら船の上の時間を過ごします。

外装作業が一段落すると、次は電装、内装の作業に入っていきます。先日も古い機器を外し、そこにつながるケーブル類を、天井を、床をはがしながら整理してきました。航海計器を一新するので、古い機器はいくつもあり、これらをひとつひとつ配線、結線をしていきいます。この作業は絡んだ糸を解く作業によく似ていて、正直「大変」です。ですが、ひとつずつ整理をしながら、新しい配線ができ上っていく様子は楽しいものです。冒頭に書いたように、ナイデルはsaiブランドのオフグリッド事業のフラッグシップです。機器のほとんどを電化する予定ですが、電気の発電量と蓄電量、消費量を計算し、優先順位を決め、計画を進めていき、最終的にはエンジンさえもモーターに電化してしまいたいと企んでいます。
しかし、その前に最低限の電力でも楽しいヨットライフを送ることができる心と体が必要です。現代の生活と比べると不便で大変なことばかりですが、不便を楽しむ心意気があれば、意外とオフグリッド生活のハードルは低いものになるのかもしれません。