vol. 12  「モノには魂が宿る」

祖母の嫁入り道具のひとつだった 桔梗紋の入った小箱と琴爪

 ちょっと前、刀剣乱舞というゲームが流行り、その後ミュージカルやアニメ、最近では実写映画化もされた。日本刀の名刀を擬人化した刀剣男子が戦い、「特」へと進化し「極」へと成長させることができるらしい。固有の生存値が設定されていて、ゼロになると最期の言葉を残して消滅するという凝りようだ。刀に魂が宿るとした考え方は、道具は百年という年月を経ると魂を得て精霊化するとされ、粗末に扱うと成れの果ては妖怪となり人をたぶらかすとされた室町時代のお伽噺「つくもがみ(付喪神)」に由来する。転じて100年に一年足らない99年には長い年月という意味もあって「九十九神」とも書くらしい。

 我が家には漆塗りの古い箪笥が今も残っている。旧家出身の祖母の嫁入り道具だと聞かされている。道理で鍵穴を囲む家紋が我が家のものと違うわけだ。本来は帖紙(たとうし)に包まれた和着物を収納するものだが、物心ついた頃には既に他の用途に使われていた。今から30年近く前、実家が手狭になったことから私が譲り受け、その後、駐在を機に家財道具として欧州へ送った。珍しさもあって興味を持ったローカルの人に差し上げようとしたこともあったが、「これは只の古物では無い。ファミリーヒストリーが刻まれているのだから、あなたが大事に持っておくべきだ」と諭されて、結局、日本へ持ち帰った。その後も本来の価値を見出すことなく無用の長物と化していたところ、最近になって腕の良い箪笥職人と出会った。開きづらくなった抽斗、乾燥して割れた背板、取手金具の歪みなど、再生には凡そ新品が買えるほどの費用も嵩んだが、「思い」に勝るものは無いと自分に言い聞かせ、長い修理期間を経て我が家へ戻ってきた。

 それまで片隅に置かれた黒い塊は、リビングルームに鎮座することになり、その抽斗には振袖や留袖が納まった。下段には帯留めやかんざしなど小物類の他、足袋や草履までもがちょうど収納できる。主であった祖母も、その子供である父も他界し、今その入れ物は私の妻や娘を着飾る和装の居場所となった。96年前、一緒に嫁入りした琴爪の小箱も仕舞っておこう。これで九十九神にたぶらかされずに済みそうだ。