vol. 28「灯台とコルトレーンと」

木の温もりに包まれた音の箱。雑音さえ、時を超える響きに変わってゆく。

 今回の旅でどうしても訪れたい場所があった。ボストン湾口に立つ北米最古の灯台である。1716年に建てられたその灯台は、日本で最初の観音崎灯台よりも150年も早い。独立戦争のさなかに一度は破壊されたが、1783年に再建され、今なお現役で光を放ち続けている。稼働中の灯台としては、メイン州のポートランドヘッドライトに次いで古いとされる。

 その灯台が立つリトルブリュースター島へは、国立公園局のレンジャーが操る船でしか近づけない。登頂はおろか上陸も許されないが、船から仰ぎ見ると、潮風に吹かれながら凛と立つ姿が目に焼きついた。航行が目視に頼っていた時代、灯台は命を預ける道標だった。維持には必ず人の手が必要で、そこに暮らした灯台守の家族の記録も残されている。いまやGPSやレーダーが航路を示す時代となり、灯台の役割は大きく減じた。それでも濃霧や冬の嵐のとき、10秒に一度灯る光は、なお多くの船を導いている。テクノロジーの進歩に押し流されながらも、役割を終え切らずに残る存在感。その姿が胸に沁みた。

 旅から戻ったある日、思いがけず手元にもうひとつの「旧いもの」がやってきた。メインランドに転勤する隣人が置いていったオーディオプレーヤーである。ラジオとレコードプレーヤーが一体となったミッドセンチュリー風の姿に惹かれて裏蓋を外すと、「Made in Japan」の文字があった。真空管ではなかったが、トランジスタ以前の電気回路が整然と並び、1960年前後の製品ではないかと想像がふくらむ。

 久しぶりに「はんだごて」を取り出し、緩んだ配線を結線し直すとラジオが息を吹き返した。針がないためレコードは再生できないが、スピーカーからは少し雑音交じりのハワイのラジオ局の音が流れた。その瞬間、かつて短波ラジオで耳にした米軍放送FENの記憶が蘇る。時間を超えて記憶を呼び覚ます道具の力に、しばし感慨を覚えた。ボストン湾の灯台、そして我が家の古いオーディオプレーヤー。目的を果たす方法は変わっても、いずれも「過去の遺物」と呼ぶには惜しい存在だ。むしろ「古きを訪ねて新しきを知る」温故知新という言葉そのものだ。便利さだけを追い求めるあまり、僕たちがいつの間にか手放してしまった大切な何かを、彼らは静かに語りかけてくる。

 ラジオのダイヤルを回してジャズ局に合わせると、コルトレーンの甘いサックスがスピーカーから立ちのぼった。思わず手を止め、冷やしておいたラム酒をゆっくり口に含む。気づけば、部屋の灯りを点けることさえ忘れた夕暮れの薄暗い部屋で、音と酒に包まれるひとときが現れた。そんな贅沢な「オフグリッド」こそ、現代に生きる僕たちに必要な休息なのかもしれない。

投稿者: Taka

これまで百数十か国を訪れ、欧米7か国で20年暮らしてきた。メーカーに30数年勤め、縁あって今はハワイ在住。グローバルな生活から一転、ロコとして生きる。 座右の銘は、Life is a journey, not a destination. (人生は旅、その過程を楽しもうじゃないか)