vol. 7 「会社からのオフグリッド」

日暮れ時の時間の過ごし方が大きく変わった

 およそ3か月振りの投稿となる。30数年勤めた会社を「オフグリッド」して、大学経営のフィールドに移籍、日本を離れハワイに移住した。これまでの転勤は会社の意思だったが、初めて自分の意思で環境を変えてみた。これまでの経験から最初の100日がその後の3年を決めると言っても過言ではない。できるだけその土地の言葉を介し、その土地の水を飲み、そして日本食を口にしない。いささかストイックともいえるが、ローカルに馴染み、そこで生活をするということは、まず新たな環境を自ら受け容れることが大事なのだ。住むということは「お客さん」ではなく、「住民」にならなくてはならない。もちろん、新参者としては先達の教えを請い、少々、理不尽だと思えることも先ずは試してみる。

 ところが、此処、ハワイではマイノリティがマジョリティであるような独特の文化があり、言語も慣習も何もかもが多様性の中で培われてきたことに気付く。隣家の白人はリタイアとともにハワイにやってきて、今もレイカーズを愛し、大型テレビでドジャーズに釘付けで凡そ何処にいても彼のライフスタイルは変わらない。もう一軒の隣家の黒人は、ここ3か月で数回、言葉を交わしただけで、今日、引っ越していくという。アロハ・スピリットだと言って、多くの家具を無償で譲ってくれた。管制官である彼は軍民共用の航空管制を担い、ハワイにルーツを持つらしい。職場の大学では、サモア系の大男が学生寮を仕切り、フィリピン系のオバチャンが人事を担う。これまで住んだ多くの国と違い、本当に多民族で多様な人たちに囲まれ、「お手本」となるローカルが居ない。 「みんな好きに生きている」感じがするのだ。それだけに、自分を見失ってはいけないのだろう。

 今日はアースデー。多くの住民が早朝からビーチクリーンに集まり、コミュニティから提供された朝食にありつく。そして夕暮れとともに同じ顔触れが再びビーチに集まり、ビール片手にアマチュアバンドの演奏に潮風が心地良い。曲はジャーニーのセパレート・ウェイズ(別々の道)。フラれた男の女々しい嘆きの歌とでも言おうか、懐かしい。誰かが、昔の女の話をしだした。

古材でつくるスパイキー

その昔、日本に初めて輸入したオーストラリアの「スポッテッド・ガム」というハードウッドで、当時勤めていた会社のマリーナ「シーボニア」にボードウォークをつくりました。ここで木材のことを指南してくれたのが、鈴木さんという日本を代表する船大工さん。比重が1.05ほどあり、組織が密で、あまりにも硬い木材で、切るのも孔をあけるのにも苦労しました。親方(鈴木さん)は、道具の使い方や木材の特性まで、たくさんのことを教えてくれました。
現場を終え、本社に戻る挨拶に伺った時、仏頂面で「これ持ってけ」と頂いたのが写真の上段のスパイキーです。
※スパイキー:もやいロープの先端にアイ(わっか)をつくるために、ロープを編むための道具

あれから30数年が経ち、友人への贈り物として、ハードウッドの端材でスパイキーをつくってみようと思い立ちました。親方からの言葉を思い出しながら、写真の赤茶色の2本をつくり、夫婦スパイキーとして友人夫婦に贈りました。(素材:マニルカラ材)
実際につくり始めると、親方の作品は削り出し方、フォルム、磨き方など、どこにも手抜きがないことがよく分かります。そんな丁寧な仕事をして、出来上がった作品を20代半ばの生意気な若者に贈ってくれたのです。30数年後、若者は壮年となった現在でも、相変わらず木材を使い続け、それを後世に残す仕事を生業にしています。誰かを想い、モノをつくること。時代は変わっても、変わらないこと、変わらないモノを伝え、残していきたいですね。

vol. 6 「電気のオフグリッド」

宇宙空間は究極のオフグリッドといえよう

 「宇宙が身近になった」と騒がしい。テレビで宇宙ステーションを見ながら、これこそ究極のオフグリッドでは無いかと想像が膨らんだ。空気も水も電気も何もかもグリッド(供給網)に繋がっていない。電気は太陽光パネルにより発電され、軌道が夜になると蓄電池から給電される。この繰り返しを1日に16回も繰り返している。開発当初は地球からスペースシャトルで持ち込まれていた水や空気も、100%では無いにせよ再生装置によってリサイクルされるようになった。まだまだ装置は大袈裟なものだが、常時6人の宇宙飛行士が長期滞在できるよう緻密に計算されている。大したものだ。

 我々は生まれた時から電気が当たり前にあったから、電気を作るという発想に乏しい。電気は遠くにある発電所で作られ、電線を伝って家庭に送られ、コンセントに差し込めば光や暖が取れるものと思ってきた。昭和世代なら、「また停電だぁ」と配電盤を見に行くとブレーカーが落ちていた経験もあるだろう。平成世代でも蛍光灯がチカチカして取り替えたり、電池を入れ替えたりした経験くらいあるだろう。最近では固定電話が携帯電話に代わり、インターネット接続もケーブルからWIFIに置き換わり、通信の世界から「線」がなくなった。新しい機種の携帯電話は置くだけで給電され、掃除ロボットも電池が消耗したら給電に戻ってくる。電気自動車の登場でエンジンのモーター化が現実となり、近い将来、アメリカでは高速道路に給電専用レーンが設置され、ワイヤレス電力伝送によって給電されるという。目に見えないのに繋がっている不思議な世界は令和世代には当然のものとなるのだろう。

 せめて線で繋がっているうちに電気をどれくらい使っているのか調べてみて、自給できないか考えてみようか。今使っている電力量がどれくらいで、それを補うだけの蓄電池はどれほど必要なのか、発電するにはどんな方法があるんだろうかと思いを巡らせてみるのはどうだろう。宇宙を見ながら身近な我が家の電力事情を考えてみるのもオフグリッドの第一歩なのかと今更ながらに思った。

太陽の力で、井戸水を汲み上げる

2021年末に敷地に隣接する古井戸の底質、水質を調べようと、レンタル屋さんで水中ポンプを借り、井戸水を汲み上げました。2mあった水深は順調に減って行きました。水深が1.2mになるとそれまで通りポンプから排水はされるのですが、水深が浅くなりません。そう、ポンプで汲み上げている量と同量の地下水が流入しているのです。井戸の内径が0.75mなので、半径は0.375m。この場合、常時ある水の量=0.375m×0.375m×π×1.2m=0.53㎥=0.53t=530ℓとなります。計測時の水深2mの場合は880ℓと、屋外で使う水の量には十分な量ですね。 脚立で井戸の水面まで降りると、底質は砂と砂利で、不思議と堆積物はほとんどなく、水も澄んでいました。

この地下水を植物への水やりや、収穫物の洗浄、屋外シャワーなどに利用したいと考え、揚水ポンプで汲み上げることにしたのです。ここで上水のオフグリッドです。屋外シャワーにも使用したいので、電動ポンプを利用することにしました。
電動ポンプは川本製作所のソフトカワエース(NF3-250S)を選び、これに荏原製作所 エバラ 砂取器 (TBST-25)を取り付けました。川本製作所の製品を選んだのは、 ポンプの回転数をインバータ制御することにより、地下水位に影響されることなく、吐出圧を一定に給水を行えること、そして接液部はステンレスを主要部品に採用しており、耐久性も高く清潔だからです。
NF3-250S のスペック

木柵の下桟に専用の台座を製作し、そこにポンプを設置し、呼び水を入れAC電源を入れると、勢いよくきれいな水を汲み上げてくれました。ポンプがきちんと動くことが確認できたので、これを独立電源で動かすことにします。最終的には井戸の横に90Wのソーラーパネルを装着したポールを建てる予定ですが、その前に太陽光から充電をしたEco Flow DELTA MAX2000でも試運転をしました。
Eco Flow DELTA MAX2000 のスペック

無事に Eco Flowに貯めた自然エネルギーで揚水することができました。 機械の性能を考えれば当前のことですが、井戸水の利用という上水からのオフグリッドに一歩近づいたのは嬉しいものです。これから、計画する「発蓄電ポール」には、12Vの鉛バッテリーと、これを交流に変換するインバーターを装着する予定です。インバーターはポンプの容性能から、菱電のSK350-112を選択しました。 この製品は 定格入力電圧 12Vdc 、連続出力 350W、最大出力(3分間) 385W、サージ電力 700Wという性能です。

現在、「発蓄電ポール」は、本業のビジネスパートナーである風憩セコロさんに製作をお願いしており、基礎にはsaiブランドの螺杭を使用します。 新規事業のオフグリッド分野にも、本業の技術を導入し、更なる進化を目指していきます。

環境性能を測る

皆さんが旅行に出かけた時、雨でどんよりとした天候だとしたら、その地の印象はあまりよくないものになってしまいます。晴天の下で体験したかった理想のアクティビティーが台無しになってしまうかもしれません。そうならないためにも、その地の季節や天気の動向を予測し計画をしたいものですね。

この予測には過去のデータから積み上げた統計が重要になります。温度、湿度、降水量等が季節の変化を肌で感じる数字となります。当地では オフグリッド生活を体験できるテントサイトだけでなく、本業である木製構造物の耐久性を検証するため、いくつかの環境観測機器を導入しています。ここで蓄積しているデータは、オフグリッドを計画する上でも大変重要なものとなるでしょう。日射量や風速など、自然が発するエネルギーを使わせていただくには、その量や質を把握しておく必要があります。今回は、ここで計測している環境測定機器をご紹介します。

NETATMO ウェザーステーション

Netatmo ウェザーステーションは、屋内外用2つのモジュールで気温や湿度、CO2濃度などから屋内外の空気質を評価するアプリケーション連動型ウェザーステーションです。観測データには、PCやiPhoneから簡単にアクセスでき、リアルタイムで情報をブラウズできるだけでなく、そのログデータが蓄積されています。

現代版百葉箱(京都大学大学院農学研究科)

京都大学大学院の藤井義久教授にご提供いただいている機材です。日射量ロガー、紫外線ロガー、そして
温湿度ロガー。地表から2m程度の高さに各種のセンサーを設置し、日々、データを集積しています。日射量と紫外線量は、木製構造物へのダメージを与える大きな因子で、これを測定し、暴露試験体の劣化度との相関を分析します。

実際の暴露試験体の含水率を測定しています。毎月末に測定をしていますが、わずか1か月で倍、半分の変化が計測されることもあります。 これを日々の湿度データと比較することで相関を見ていくわけですが、 木材を人間の体だとすると、これだけ環境の影響を受けていることになるのです。

これらの蓄積したデータを分析することにより、「電力からのオフグリッド」の重要な要素である「自然エネルギーによる発電手段」を計画していきます。今のところ、太陽光(日射量)の利用はもちろんのこと、常に風が吹いている環境なので、風力発電も併せて計画していこうかとも考え始めました。

このように「環境」を「数値」として測ることができます。この数値をどう蓄積し、どう読むか。
本業である木製構造物の耐久性の検証や、新規事業であるオフグリッド事業の発電手段の検討など、環境を測ることで、どっぷりと地球と共に生きているという感覚を覚えています。

オフグリッド テントサイト完成

「オフグリッドってなんだろう?」「グリッドって何?何からオフするの?」「テント?さすがにこの時期は沖縄でも寒いのでは?」
タイトルと写真を見て、こんなことを感じた人も多いのではないだろうか。

saiブランドの考えるOff The Grid事業の一環として、まず「オフグリッドとは何か」を体験できる施設をつくろうということになりました。

この施設を少し上から俯瞰して見ると、こんな感じになっています。
テントが載るメインデッキは幅6m×奥行5m。床高は湿気や冷気を防ぐために地表から60cm上げています。
そこにつながるスロープから降りると、地表から30cmの高さの縁台デッキにつながります。
それよりも徒歩3分の到着するきれいなビーチが気になるかもしれません(笑)

このデッキと木柵ですが、 林野庁の補助事業である「令和3年度 外構部の木質化対策支援事業(企画提案型実証事業) 」に採択をいただいたものです。募集要項には以下のような記載がありました。

外構部の木質化に係る先進的な取組の効果、又は普及効果の実証を通じて課題解決に取り組む次の実証事業を対象とします。 なお、(1)、(2)いずれの実証においても、整備する施設の維持管理計画、成果の普及活動及び成果の波及効果等について検討を行うものとします。

(1)木材・製品・技術の性能等の検証に関するもの
外構部における木材の新たな利用方法等を企画し、性能等を確認するもの。
例)・木製遮音壁を整備し、耐久性、耐候性及び遮音性を確認する。
・利用者でも交換可能な部材の活用や施工方法で木塀等を整備し、維持管理の容易性を確認る。
・木ならではの質感、デザイン性等を活かした木製外構施設を整備し、木質化による設計から維持管理までのコストへの影響を確認する。
・新しい技術、工法等を用いて、これまで木質化が進んでいない外構施設の木質化に取組み、当該施設に求められる性能を有するかを確認する。  など

(2)利用者や社会に及ぼす効果等の把握に関するもの
木質化した外構施設が利用者や社会に及ぼす効果等を把握するもの。
例)・地域材を利用した木塀を広範に整備し、地域景観への影響やシビックプライドの醸成効果を把握する。     ・木製遊具を整備し、利用者の受ける印象や行動への影響を把握する。  など

昨年度のこの事業で、北海道に木柵を立てに行きました。これは今回の事業を勧めて下さった物林株式会社さんの関連会社の施設で、マイナス20度の極寒の中、杭打ちをしたのは一生忘れられない思い出です。
昨年の北海道の実績と、今期の沖縄の実績を対比させることにより、ここで採用した工法や仕様の優位性を検証することとしています。

このように、公的な助成金を活用し、この施設をつくることができました。
デッキ、木柵ともに、基礎はコンクリートを一切使用せず、全て螺杭(鋼製杭)を使用し、将来、この施設を改修する際は、杭を逆回転させれば簡単に撤去することができるのです。
主構造は、60m/sの台風による暴風を想定し、スチール材としています。
デッキ材や、木柵の格子といった面材は、株式会社アリモト工業さんの鹿児島産の杉材を使用し、デッキ材の表面はヒートローラー処理、格子材は2種類の特殊な塗装を行い、その耐久性を検証しています。
これまでの工事の経過や詳細の仕様は検査の完了後に公開させていただきます。

さて、テントの中にはエコフローさんのデルタマックス2000というリチウムイオン電池を搭載したバッテリーを装備しています。これに160Wソーラーパネル2枚で発電した電力を充電しています。本機は最大2000Wの出力が可能なので、普段、室内で使用している家電をそのまま利用することができます。

”自然に抱かれながら、いつものツール(生活必需品)を使い、便利に不自由を楽しむ。”そんな新しい価値観を提供する施設です。
しばらくはプレオープン期間とし、友人など、関係者に宿泊をしていただき、ご意見を伺い、それらをフィードバックし、利用しやすい施設として整備したいと思います。
大自然と木に囲まれた環境で、あなたなら何を考え、何をしますか?
ご興味のある方は、代表アドレス(sai@sai-brand.jp )までメールにてご連絡をお願いします。

vol. 5「地球を感じる、そんな大袈裟な!」

船舶時計は振動に強く、見えやすいのが特徴

 海の仕事をしたことのある人なら、ワッチという言葉は身近に聞こえるかも知れない。さらにヨンパー・ワッチと聞いてピンと反応できる人は船に勤務したことがあるのかも知れない。ワッチとは航海当直を意味し、24時間、船の航行を交代で見張りする仕組みを指し、通常3チームの航海士が輪番で当たる。たいてい午前と午後に分け、さらにそれを3等分すれば、4時間毎の交代である。ゼロヨンは深夜と昼間、パーゼロは活動の多い時間に当たり、ヨンパーは朝と夕方となる。以前、観測船に乗る機会があり、どのチームが良いかと船員に聞いたら、殿様と泥棒があるが敢えていずれも選ばないと答えてくれた。禅問答である。よくよく聞いてみると、深夜にゴソゴソと人目に付かない時間帯である0時から4時のゼロヨン・ワッチを泥棒ワッチと呼び、乗船している皆が起きていて活動時間帯にあたる8時から12時の体力的にも楽なパーゼロ・ワッチを殿様ワッチというらしい。いずれも航海士のランクによってワッチにあたる。その船員がそのいずれも選ばない、すなわち4時から8時のヨンパー・ワッチは、全ての季節で日の出と日の入りの時間帯に当たり明るい時間と暗い時間の境目を経験できる。そしてそれは二等航海士の特権なのだと教えてくれた。さらに付け加えて、変化の無い船上生活だからこそ、日々の変化は楽しみなのだと教えてくれた。

 それ以来、私にとって朝に夕にこの時間帯が愛おしく思えてならない。一般の人は通学や通勤の時間帯にあたり、多くの人はこの時間帯に朝食と夕食を摂る。釣りに出かける人なら、「まずめ」といって薄明るい時間帯は獲物の狙いどきでもある。しかし多くの場合、現代社会は活動エリアは照らされ、都市部は深夜でさえ明るい。そう、この素晴らしい変化を楽しむには屋外に居る必要がある。いや、正確には屋外を感じられることが大事なのかも知れない。4時から8時には身近なベランダや庭で、まず、人間を「オフグリッド」してみると、少し地球を感じることができるかも知れない。

vol. 4「オフグリッドやってみた、ちょっとだけ」

簡易的な自動散水装置「水やり花子」(右の青バケツ上の白い円柱形)

 旅行や出張で不在がちな我が家。それに転勤を繰り返してきたこともあって、動植物を飼ったり育てたりすることを避けてきた。友人のブログで犬が出てきたり、水槽が出てきたりすると衝動に駆られるが、ましてやマンション住まいだと一時の迷いと諦めていた。そんな話を一軒家に住む友人としていたら、枯れてもいいから試しにやってみろとトマトの苗をもらった。友人曰く、バケツのような鉢に土を入れて、苗を一つだけ入れると夏にはトマトが出来ると言う。そう、出来ると言っただけで収穫が期待されるとは言わなかった。しかも、萎れたら水をたっぷりやるだけと、いとも簡単に言うではないか。「枯れてもいい、できればいい」というハードルの低さもあって、苗を片手にホームセンターで安い植木鉢と土を購入した。その金額だけでもスーパーで立派なトマトが買えるじゃ無いかとヨコシマな気持ちもあったが、「試し」なので植えてみることにした。

 程なく苗は成長し支柱が必要となる。こんなに伸びるなんて聞いてないよ、と思いつつも成長が気になってしょうがない。萎れるなんてもってのほか、せっせと水をやって育てた。ところが、用あって10日間ほど家を空けなくてはならない。せっかく伸びた苗を前に、もはや「枯れてもいい」と言う気持ちはなかった。「なんとかせねば」である。最初に思いついたのが、一緒に連れていくこと。しかし植木鉢を持って移動なんてありえない。近所に水やりを頼むことも一案だったが、元来、都会暮らしで付き合いが無い。自動散水装置を敷設するかとも過ぎったが、ベランダに水道が無い。この愛おしいトマトの苗が萎れ、枯れていくのかと思うと、家を空けてはならないとさえ思った。ピンチである。悶々とググっていると、あるものを見つけた。太陽光でポンプを作動させ、汲水散水できる簡易な散水ポンプだった。悩んでいる時間は無い、即購入、即設置と相成った。朝夕のポンプの作動、せめてこれで生き長らえてくれたらと願い出掛けた。5月に植えた苗はやがて立派なトマトを次々と実らせ、ひと夏を十分すぎるほど楽しませてくれた。来年は水道水ではなく、雨水が溜まる仕組みにチャレンジしてみたい。多少の不便とその過程を敢えて楽しむ、我が家のちょっとしたオフグリッドが始まった。

※水やり花子 https://funkstrading.co.jp/product/hanako

vol. 3「地産地消って聞くよね」

コッツウォルズ村には蜂蜜色の石を積んだ家並みが続く

 放牧が盛んなアメリカ内陸部は肉文化が中心で、日本には馴染みの無いところでは去勢した牛の睾丸を食す。BBQで焼いてイチジクのような半生の中身の「カウボーイ・キャビア」だったり、コロラド州にある地元ビールCoors(クアーズ)がスポンサーの球場では唐揚げの「ロッキー・マウンテン・オイスター」が有名だ。部位を想像しなければ、それなりの美味で、文字通りキャビアやオイスターの食感が楽しめる。日本にだって、内臓肉を焼く「ホルモン焼き」や鍋で炊く「モツ鍋」が好きな人も多い。いずれも、放るもん(関西弁で「捨てる」の意味)を食べるわけだから、余すことなく食材を食べ尽くす。

 イギリスにコッツウォルズという村がある。そこで産出される蜂蜜色の石を積んだ家並みは否応なしに調和し、現代社会では使い勝手の悪そうな造りでも人々は住み続けている。郊外の丘陵地には石垣に囲まれた農地が続くが、耕す過程でその土地から出てくる石礫を積み上げたものらしい。遠くに見える白い斑点は羊の群れが草を喰んでいる。エリアは特別自然美観地域に指定され、その素晴らしい景観に魅せられる人も多い。

 いずれも共通するのは地産地消の考えだ。そこで暮らすということは、そういうことなのかも知れない。グローバル化が進み、物流が発達した現代社会にあって、ポチれば何でも届く。遠くの土地で作られた電気がコンセントから供給され、蛇口を捻れば飲料水が出てくる。そんな便利な暮らしに、何かひとつでも地元のものを取り入れてみてはどうだろう。近所に農家が居なければ家庭菜園をやってみるのも手だ。それが無理ならプランターで育てるのもいいだろう。せめて携帯用のバッテリーの充電くらいソーラーパネルで出来ないものか。近所に湧水があれば、汲んで沸かして冷まして飲んでみるのもどうだろう。オフグリッドなんて私無理!と拒絶する前に、その地で得られる太陽や大地の恵みを受けてみるのはどうだろう。まずはハードルをグンと低くして出来そうなことからやってみてはどうだろう。

vol. 2 「オフグリッドって、どゆこと?」

下枝を伐採し、整備された静岡の杉林

 まるでポンデリングのような形に17色のカラフルな色使いのマークを見たことがある人は多いだろう。国連は人々と地球の繁栄のための行動計画として17の目標を示し、その13番目に「気候変動に具体的な対策 を」と掲げた。そして 2015 年にパリで開かれた気候変動サミットで地球の平均気温の上昇を抑えるとした。 世界の首脳たちは角を突き合わせ喧々諤々やかましい。やれ中国だ、インドだと、発展目覚ましい国を槍玉に あげてはいるが、日本の70−80年代の高度成⻑期を思えばわかりやすい。僕らが小学生の頃は「光化学ス モッグ注意報」が出ると体育の授業は中止され下校させられた。工場の煙は空を覆い、夜空に北斗七星が3つしか見えなかったことを覚えている。その後、日本は経済成⻑し生活環境は劇的に変わった。端的にいうと臭わなくなった。エアコンで部屋の温度は調節され、蛇口からは飲める水が出てくる。CO2排出と聞くと、車 の排ガスくらいしか思いつかない。クリーンでキレイな生活をしていると、気候問題と言われても自分自身が 地球を汚している実感が湧かないのだ。

 ところが、排出源を部門別にみると、家庭部門が14%も占めてい る。試算によると一般家庭の世帯あたりの排出量は年間5トンに及ぶらしい。しかもそのうち電気使用による CO2排出が7割を占め、ガス、灯油と続く。単純計算なら、電線を伝わってくる電気を使うだけで年間3トン以上のCO2を排出していることになる。森に例えると1トンのCO2の吸収には杉換算で71本になるらしい。沖縄には50万世帯が暮らしているから、電力消費だけで年間250万トン排出と試算され、それは杉 18,000本に相当、植林なら目安は1坪1本だから、18,000坪=6ヘクタール分の杉林に相当する。よく聞く東京ドームが5ヘクタールだから、沖縄の電力消費は毎年、それぐらいの杉林を伐採したことと同じというわけか。今更ながら、電気を使わない生活は考えられないが、沖縄は 99%が火力発電に頼っている。その発電を環境負荷の低い自然由来の再生エネルギーへ変える努力はできるが、沖縄の場合、高低差が無いので 水力は望めない。台風も多く風力は厳しい。ならば降り注ぐ太陽の恵みを受ける太陽光発電が現実的かも知れない。まずは年間の電気消費量をチェックして、太陽光パネルで補える蓄電池を用意できれば、家庭で消費する 一部でも「オフグリッド」できるかも知れない。小さいことから考え始めてみるか。

※参照:環境省調査結果 http://www.env.go.jp/earth/chosa1901-2.pdf