vol. 10 「ブックエンドと万年筆と」

1940年代から手入れされた戦艦ミズーリのチークデッキ

 学生時代は片岡義男を文庫本で読んでいた。社会人になってからは宮本輝を単行本で読んでいた。読了後も何度となく手に取ると、その度に新たな気付きがあるので、いつまでたっても本棚の定位置に鎮座している。通学や通勤の帰路、本屋に立ち寄って立ち読みしていた時や図書館の古書の匂いも懐かしい。本というのは個人に帰属していて、あまり受け継がれたという話は聞かない。親父は相当な読書家だったが、僕はその蔵書に興味が無かった。全集や初版絶版ものなど、コレクター垂涎のものもあったらしいが、古書屋にお願いして引き取ってもらったことを覚えている。空になった本棚に残っていたブックエンドだけは、今も僕の書棚でその役目を果たしている。金属を型抜きしただけの簡素な造りだが、数々の名著を立てておくには欠かせない。これはまるで多くの出来事に区切りをつけるように、その役割を果たしている。

 海外で仕事をするようになって多くの場面で契約書に署名をしてきた。中には事業譲渡や示談書への署名などその時々の立場で重要な書面にも接してきた。いつも同じ万年筆を使い、ブルーブラックとダークブラウンのインクを交互に補給してきた。こうすることで、インクの混じり具合が微妙に変わり、偽造防止にも一役買うと聞いたからだ。契約書というもの、ただの紙切れだがその絶大な効力を持つ。なんだかブックエンドの機能に通じるものがある

 77年前、東京湾に浮かぶ戦艦ミズーリで、日本は連合軍に対して降伏文書を署名した。マッカーサー元帥が署名に使った万年筆が今も残る。ミズーリはその後、湾岸戦争まで就役し92年に退役、今は真珠湾に浮かぶ。その艦上からは、零式戦闘機が撃沈した戦艦アリゾナが今も海面下に沈んでいるのが見える。アメリカにとって、アリゾナの撃沈とミズーリでの署名式。この二隻を「第二次世界大戦のブックエンド」と称する。そして調印式のあった艦上は今も往時オリジナルのチークデッキに覆われている 。

オフグリッドとSDGs

僕のオフグリッドの原点は「ヨット」だ。ヨットは生活空間そのままに風という自然の力を動力として移動ができる。出入港やエマージェンシー対応として最低限の船内機を備えているが、メインエンジンはセール(帆)で、スピードは期待できないものの、燃料を補給することなくどこまでも移動できるのがこの乗り物の最大の魅力である。最近では堀江謙一さん(83)が単独無寄港で サンフランシスコから兵庫県の西宮まで太平洋の横断に成功した。しかも、わずか全長19フィート(約5・8メートル)の小型ヨットで、69日間のシングルハンド(乗員1名)でだ。この期間中の食糧や飲料を小さな船に積み込み、生活をしながら移動する。もちろん平穏な海況ばかりではないので、荒天に対応する装備や安全装備も欠かせない。陸上生活からオフグリッドし、海上生活に必要最低限のモノを選択し装備する。ヨットとはそういう乗り物で、広大な海に大自然を満喫しに行くと同時に、不便を愉しむための空間なのだ。すると、いかに陸上の生活は愉しみを移譲しているのかが判る。移譲しているのが人であれば、愉しみを共有できて良いのだが、電力や燃料を使い、体や経験を使うことを最低限に抑える機器や機械など、無機質なモノたちに移譲しているのだから世話はない。個の便利を追求した代償が、他人や機械のせいにする世知辛い世の中を生んだのかもしれない。

一方、モノづくりにも同様のことが言え、僕の感覚では2000年くらいを境に、それまであたりまえに使われてきた素材が新素材に置き換わってきたという印象を持っている。スチールやアルミニウムという金属は、樹脂に、天然木材は木柄シートを貼ったベニヤ板や樹脂板に、などなど。素材の軽量化による複合体の性能の向上が目的で、車の燃費などが最も分かりやすい成果だ。しかし、それら新素材の原料を輸入する際に発生するCO2や、製造する際に消費するエネルギーなど、それまで地産地消に近かった原料や素材が、世界各国から取り寄せられ、莫大なエネルギー消費の末、世界中のどこにでもあるような個性を失った製品として帰着する。世界中で同じようなモノをつくる必要はないではないか、地球環境をもっと深刻に考え、国や地域によってしっかりとした役割分担を行い、人々はそこを自由に選択し、移動できる世の中が来るといい。その土地に生まれ、愛し、土着する人、可能性や夢を掲げ離れる人、たくさんの人が入り交じり新たな価値観や文化を醸造する。船上で、そんな地球になればいいなどと考えたりする。

このヨットは1988年7月に台湾で製造されたもので、34年も前の古いヨットなので、安価で手に入れることができた。内外装に木材がふんだんに使われており、特に外装の木材は、傷みやすい木口を露出させない匠の技を随所に見ることができる。加え、紫外線の強い環境に置かれるため、削られることを前提に、必要以上に厚い木材が配されている。マメなオーナーは美観やノンスリップの機能を保つため、2~3年に一度は表面を削り、保護塗料を塗り治すのだ。先ほどの軽量化とは相反するモノづくりで、敢えて厚く(重い)ものを採用することで、いかに長い間愛してもらえるかという当時のモノづくりの価値観がうかがえる。現在ではFRPの外板に滑り止め加工を施したデッキが一般的で、メンテナンスフリーが購入の決め手になっているようだ。このような時世において、手が掛かり、見た目も均質でない天然木材は敬遠されるのだろう。このヨットのレストアを通じ、学び、考え、思うことがたくさんある。最新技術の詰まった箱の中で動く最新情報に右往左往するのではなく、古きよきモノに触れ、温故知新、時代が移り変わっても愛され続けるモノは何なのか。ヨットを通じてオフグリッドという発想に辿り着いたが、SDGsという継続性をも思考することになった。このヨットの船名は「Nydell」。その昔、ベーリング海へ半年ほど航海した時、船員さんが嵐以外の日は「今日は凪いでる」と言っていた。海も心も凪いでいる状態がいい。「Nydell」はsaiブランドのオフグリッド事業のフラッグシップだ。
Nydellも自らもレストアを続け、新たな思考を発見していこう。

vol. 9 「ハワイには靴職人が必要」

Joeの店のGeroge
“Bobbie”ことRobert De Niroの写真が飾られている

 語呂合わせのようだがジョーの店のジョージに世話になった。いい腕の靴職人でその道50年らしい。ハワイで暮らすと滅多に履く機会が減ってしまい、持ってきた革靴も出番が無い。それでも、ちょっと洒落たレストランへ出かける時は素足にローファーくらい履いていきたい。大人になったと感じたことに足の大きさが変わらなくなったと思う人も多い。どういうわけか体形が変わっても足のシェープはあまり変わらないものだ。

 ヨーロッパに居た頃、あの堅実で剛健なドイツ人が「靴はミラノ製が限る」と言っていた。「イタリア製」と一括りにしないところに意味があって、北イタリアは日本人の持つラテンのチャラチャラしたイメージに反して、真面目で勤勉、代々繋がる職人が多く、ブランドを冠した靴もそうした職人達に支えられている。良いなめし革は適度な蒸気を含むと足に馴染み、やがてそれは量産される多くと違い、靴が足に合ってくる。決して足が靴に合うのでは無い。お気に入りのローファーは靴底が薄く、その費用だけで新品が買えるくらい貼り替えてきた。「もう無理かな」と持ち込むと、「これはいい靴だ、まだ履ける」とジョージに諭され修理した。それにしても20年も履くことになろうとは思いもしなかった。

 20年前といえばちょうどユーロが導入された頃で「ミレニアム」に沸いていた。そして2015年までの国際的な開発目標MDGsが発表され、全ての国連加盟国が合意した。その後の最終評価によると、貧困や教育は改善したが国や地域、性別や年齢の格差が浮き彫りとなり、新たに設定された2030年までのSDGsは、「誰ひとり取り残さない」が基本理念となった。ここハワイでは六つの地域目標を掲げ、アロハプラスチャレンジという。クリーンエネルギーへの転換や地元産食料供給拡大、自然資源の管理、廃棄物の削減、それにスマートコミュニティの形成、グリーンジョブと環境教育と続く。島国だけに限られた資源をより有効に大切に使うことを基本にしている。最近は観光でさえ、海岸清掃や植樹、文化継承の野外体験ツアーが人気になりつつある。

 発想を変えてハワイには土産物屋を並べるより、一見必要のなさそうな靴職人の店が必要なのかも知れない。ジョージの顧客であるボビーはハワイ滞在の間サンダルを履き、持ってきた革靴を修理に出すらしい。そして仕上がった革靴を履いて自身の経営するレストランで食事をしてニューヨークへ帰って行く。ゴッドファザーを演じたロバート・デ・ニーロ、その人だ。

太陽の力で地下水を汲みあげる

~ソラポンプ完成~

梅雨の合間の曇天の今日。オフグリッド設備のひとつとなる「ソラポンプ」が完成しました。かねてからこの古井戸の再生を計画し、昨年末に井戸を浚い(さらい)、電動ポンプを取り付け揚水のテストは終わっていました。今回は基礎杭を打設し、ソーラータワーを設置、ポンプを結線、完成しました。ソーラータワーは株式会社風憩セコロさんにご提供いただきました。

元々の構想は、オフグリッドサイトの「上水のオフグリッド」に記載している通りですが、今回は汲み上げた地下水をそのままシャワーで使えるように配管をしました。弊社の基礎杭と風憩セコロさんのソーラータワーをベースに、川本ポンプさんのソフトカワエース NF3-250S /100Vを動かし、ZEZHEさんのシャワーシステムを導入しました。

ソーラータワーはオフグリッドの象徴として井戸のすぐ脇に、ポンプは木柵の後ろに隠し、シャワーシステムは木柵の前面に取り付け、一目で井戸水を太陽光で汲み上げ、シャワーとして使えるという分かりやすいレイアウトとしました。ビーチから歩いて帰り、ここで地下水の冷たい水でシャワーを浴び、オリオンビールを楽しむ。という娯楽も太陽からの恩恵です。


以下は、ソラポンプの設置画像ですので、興味のある方はご覧ください。

ソーラータワーは風憩セコロさんのソライトFSL-MF3V-ACという製品を改造してオリジナルで作っていただきました。最大出力90Wのソーラーモジュールを頂部に搭載し、ポール(A6005CS-T5)、 バッテリーボックスは(A6063S-T5)と海沿いの設置環境を考えたアルミニウムの構造体です。
タワーを支える基礎は、自社製品の螺杭(D-16:φ76×1600)と専用アタッチメントを採用しました。

アタッチメントは杭とソーラータワーを連結する重要なパーツです。ソーラータワーにかかる風圧力を基礎杭に逃がす構造と、施工時に設置位置の微調整ができる機能を両立させなければなりません。今回は風憩セコロさんの□120mm×120mmの支柱をアタッチメントに被せるスリーブ式のベースアタッチメントを設計しました。下図の通り、丸パイプのスリーブと製品支柱とのクリアランスは片側0.7mmとかなりギリギリな納まりとしましたが、現場では拍子抜けするほどスムーズに挿入できました。

揚水ポンプは 川本ポンプさんのソフトカワエース NF3-250S /100V なので、インバーターは余裕を持って350Wを出力する電菱さんのSK350-112をビルトインしています。
バッテリーはさすが風憩セコロさんで、40Ahのリチウムイオン電池1台と38Ahの鉛電池2台のハイブリッド式で、出力に応じてバッテリーを切り替えてくれる仕組みのようです。
配線はとても分かりやすく、各配線の端部につけられたタグに従い結線していくだけなので、初めて同社の製品を扱う方にも安心をいただけると思います。
今回は他社の揚水ポンプをインバーターで動かしたいという弊社の希望を実現してくれたわけですが、安全対策としてソーラーパネル、バッテリーの各回路にブレーカーを装着してくれていましたので、安心して作業をすることができました。
もともとソーラー照明灯用のコントローラーを使用してくれているので、これに照明器具を追加することも可能です。いましばらくは「漆黒の闇」を楽しみたいので、このままにしておきますが。













このソラポンプの設置を通じて、ランドスケープ事業とオフグリッド事業は極めて近い立ち位置で存在しているものだと感じています。オフグリッドの世界では、この場所のように、動力源のない土地に施設を設置したいという需要はたくさんあると思うのです。今回は揚水ポンプを動かすという目的でしたが、照明灯はもとより、Wifi中継基地、監視カメラなどなど、電気機器の省電力化により、アイディア次第でたくさんの用途がうまれることでしょう。その新たな用途を支えるのが、屋外で高い耐久性が求められるランドスケープ事業のモノづくりです。暴風暴雨に耐え、内部の精密機器を水密構造で守る。これは機能としてあたりまえですが、さらに周囲の景観に溶け込むデザインとして設える(しつらえる)。ランドスケープとオフグリッドは、こんなに近い立ち位置なのです。
ソラポンプで汲み上げた水を今後、何に使っていくのか。乞うご期待願います。

vol. 8 「テレビからのオフグリッド」

暗い部屋でラジオのDJに耳を澄ます

 コロナで失われた2年。「当たり前」と思っていたものが崩れた。それまでの日常が奪われ、人々は孤立した。毎日、報道される感染者の数を耳にしては憂い、やっと終息の出口が見え始めたと思ったらウクライナ侵攻とは、きな臭い。国際情勢は株価や為替の変動に大きく影響し、原材料や燃料の高騰でコロナ後の世界は混沌としてきた。これらの情報の多くはインターネットを介してもたらされ、テレビがここぞと囃し立てる。折角、ハワイで暮らし始めてもこれでは何処にいても気が休まらない。

 職場である大学では事務方なので教鞭を取るわけでは無いし、もとより大学は非営利法人なので経済活動から距離がある。ならばと一念発起して、ネットを見る時間を制限し、テレビをやめ旧式のラジオを買った。ネットとテレビからの「オフグリッド」だ。これまで暇さえあれば携帯片手にどれだけ多くの情報に時間を費やしてきたのかと思うと恐ろしい。

 民間企業の場合、多くを将来投資をしているわけだから、少しでも前もって備えるに越したことは無い。為替や先物取引の変動が、いかにモノづくりに直結しているかは嫌というほど経験してきた。ところがである。大学が投資しているのは、将来を託す若者たちであり、学術分野によっては投資対効果がわかりにくい。もとより経済では計り知れない分野も多く、また、その多くは人間にとって大事な学問だといえよう。それは短い期間では為しえないことが多く、「志(こころざし)」を実現するためには、安定した経営基盤を確保してあげることが私の職務だ。

 儲かるか損するかの尺度ではなく、長い目で見た投資、しかもそれは何十倍にも何千倍にも膨らむ夢をはらんでいる。先月のアースデーでビーチで一緒になった人から、「私たちが地球にできることは何か?」と聞かれたが、答えに窮した。その人は、今の歳になって感じるのは、子供の頃に感じた「あの頃」の明るさが大事だという。朝、明るくなると家畜の世話をし、夕方、暗くなると夕食を囲んだあの頃はもっと暗かったが、将来の希望をもった心は明るかった。そう、照明はこんなに明るくなったけど、コロナにウクライナ、心の中は靄が立ち込め、今、心は暗い。まず、照明を消すことが、僕が地球にできることだと話してくれた。ビーチハウスに戻って、スタンドライトひとつでラジオを聴いて、明るい気持ちを取り戻そう。

vol. 7 「会社からのオフグリッド」

日暮れ時の時間の過ごし方が大きく変わった

 およそ3か月振りの投稿となる。30数年勤めた会社を「オフグリッド」して、大学経営のフィールドに移籍、日本を離れハワイに移住した。これまでの転勤は会社の意思だったが、初めて自分の意思で環境を変えてみた。これまでの経験から最初の100日がその後の3年を決めると言っても過言ではない。できるだけその土地の言葉を介し、その土地の水を飲み、そして日本食を口にしない。いささかストイックともいえるが、ローカルに馴染み、そこで生活をするということは、まず新たな環境を自ら受け容れることが大事なのだ。住むということは「お客さん」ではなく、「住民」にならなくてはならない。もちろん、新参者としては先達の教えを請い、少々、理不尽だと思えることも先ずは試してみる。

 ところが、此処、ハワイではマイノリティがマジョリティであるような独特の文化があり、言語も慣習も何もかもが多様性の中で培われてきたことに気付く。隣家の白人はリタイアとともにハワイにやってきて、今もレイカーズを愛し、大型テレビでドジャーズに釘付けで凡そ何処にいても彼のライフスタイルは変わらない。もう一軒の隣家の黒人は、ここ3か月で数回、言葉を交わしただけで、今日、引っ越していくという。アロハ・スピリットだと言って、多くの家具を無償で譲ってくれた。管制官である彼は軍民共用の航空管制を担い、ハワイにルーツを持つらしい。職場の大学では、サモア系の大男が学生寮を仕切り、フィリピン系のオバチャンが人事を担う。これまで住んだ多くの国と違い、本当に多民族で多様な人たちに囲まれ、「お手本」となるローカルが居ない。 「みんな好きに生きている」感じがするのだ。それだけに、自分を見失ってはいけないのだろう。

 今日はアースデー。多くの住民が早朝からビーチクリーンに集まり、コミュニティから提供された朝食にありつく。そして夕暮れとともに同じ顔触れが再びビーチに集まり、ビール片手にアマチュアバンドの演奏に潮風が心地良い。曲はジャーニーのセパレート・ウェイズ(別々の道)。フラれた男の女々しい嘆きの歌とでも言おうか、懐かしい。誰かが、昔の女の話をしだした。

古材でつくるスパイキー

その昔、日本に初めて輸入したオーストラリアの「スポッテッド・ガム」というハードウッドで、当時勤めていた会社のマリーナ「シーボニア」にボードウォークをつくりました。ここで木材のことを指南してくれたのが、鈴木さんという日本を代表する船大工さん。比重が1.05ほどあり、組織が密で、あまりにも硬い木材で、切るのも孔をあけるのにも苦労しました。親方(鈴木さん)は、道具の使い方や木材の特性まで、たくさんのことを教えてくれました。
現場を終え、本社に戻る挨拶に伺った時、仏頂面で「これ持ってけ」と頂いたのが写真の上段のスパイキーです。
※スパイキー:もやいロープの先端にアイ(わっか)をつくるために、ロープを編むための道具

あれから30数年が経ち、友人への贈り物として、ハードウッドの端材でスパイキーをつくってみようと思い立ちました。親方からの言葉を思い出しながら、写真の赤茶色の2本をつくり、夫婦スパイキーとして友人夫婦に贈りました。(素材:マニルカラ材)
実際につくり始めると、親方の作品は削り出し方、フォルム、磨き方など、どこにも手抜きがないことがよく分かります。そんな丁寧な仕事をして、出来上がった作品を20代半ばの生意気な若者に贈ってくれたのです。30数年後、若者は壮年となった現在でも、相変わらず木材を使い続け、それを後世に残す仕事を生業にしています。誰かを想い、モノをつくること。時代は変わっても、変わらないこと、変わらないモノを伝え、残していきたいですね。

vol. 6 「電気のオフグリッド」

宇宙空間は究極のオフグリッドといえよう

 「宇宙が身近になった」と騒がしい。テレビで宇宙ステーションを見ながら、これこそ究極のオフグリッドでは無いかと想像が膨らんだ。空気も水も電気も何もかもグリッド(供給網)に繋がっていない。電気は太陽光パネルにより発電され、軌道が夜になると蓄電池から給電される。この繰り返しを1日に16回も繰り返している。開発当初は地球からスペースシャトルで持ち込まれていた水や空気も、100%では無いにせよ再生装置によってリサイクルされるようになった。まだまだ装置は大袈裟なものだが、常時6人の宇宙飛行士が長期滞在できるよう緻密に計算されている。大したものだ。

 我々は生まれた時から電気が当たり前にあったから、電気を作るという発想に乏しい。電気は遠くにある発電所で作られ、電線を伝って家庭に送られ、コンセントに差し込めば光や暖が取れるものと思ってきた。昭和世代なら、「また停電だぁ」と配電盤を見に行くとブレーカーが落ちていた経験もあるだろう。平成世代でも蛍光灯がチカチカして取り替えたり、電池を入れ替えたりした経験くらいあるだろう。最近では固定電話が携帯電話に代わり、インターネット接続もケーブルからWIFIに置き換わり、通信の世界から「線」がなくなった。新しい機種の携帯電話は置くだけで給電され、掃除ロボットも電池が消耗したら給電に戻ってくる。電気自動車の登場でエンジンのモーター化が現実となり、近い将来、アメリカでは高速道路に給電専用レーンが設置され、ワイヤレス電力伝送によって給電されるという。目に見えないのに繋がっている不思議な世界は令和世代には当然のものとなるのだろう。

 せめて線で繋がっているうちに電気をどれくらい使っているのか調べてみて、自給できないか考えてみようか。今使っている電力量がどれくらいで、それを補うだけの蓄電池はどれほど必要なのか、発電するにはどんな方法があるんだろうかと思いを巡らせてみるのはどうだろう。宇宙を見ながら身近な我が家の電力事情を考えてみるのもオフグリッドの第一歩なのかと今更ながらに思った。

太陽の力で、井戸水を汲み上げる

2021年末に敷地に隣接する古井戸の底質、水質を調べようと、レンタル屋さんで水中ポンプを借り、井戸水を汲み上げました。2mあった水深は順調に減って行きました。水深が1.2mになるとそれまで通りポンプから排水はされるのですが、水深が浅くなりません。そう、ポンプで汲み上げている量と同量の地下水が流入しているのです。井戸の内径が0.75mなので、半径は0.375m。この場合、常時ある水の量=0.375m×0.375m×π×1.2m=0.53㎥=0.53t=530ℓとなります。計測時の水深2mの場合は880ℓと、屋外で使う水の量には十分な量ですね。 脚立で井戸の水面まで降りると、底質は砂と砂利で、不思議と堆積物はほとんどなく、水も澄んでいました。

この地下水を植物への水やりや、収穫物の洗浄、屋外シャワーなどに利用したいと考え、揚水ポンプで汲み上げることにしたのです。ここで上水のオフグリッドです。屋外シャワーにも使用したいので、電動ポンプを利用することにしました。
電動ポンプは川本製作所のソフトカワエース(NF3-250S)を選び、これに荏原製作所 エバラ 砂取器 (TBST-25)を取り付けました。川本製作所の製品を選んだのは、 ポンプの回転数をインバータ制御することにより、地下水位に影響されることなく、吐出圧を一定に給水を行えること、そして接液部はステンレスを主要部品に採用しており、耐久性も高く清潔だからです。
NF3-250S のスペック

木柵の下桟に専用の台座を製作し、そこにポンプを設置し、呼び水を入れAC電源を入れると、勢いよくきれいな水を汲み上げてくれました。ポンプがきちんと動くことが確認できたので、これを独立電源で動かすことにします。最終的には井戸の横に90Wのソーラーパネルを装着したポールを建てる予定ですが、その前に太陽光から充電をしたEco Flow DELTA MAX2000でも試運転をしました。
Eco Flow DELTA MAX2000 のスペック

無事に Eco Flowに貯めた自然エネルギーで揚水することができました。 機械の性能を考えれば当前のことですが、井戸水の利用という上水からのオフグリッドに一歩近づいたのは嬉しいものです。これから、計画する「発蓄電ポール」には、12Vの鉛バッテリーと、これを交流に変換するインバーターを装着する予定です。インバーターはポンプの容性能から、菱電のSK350-112を選択しました。 この製品は 定格入力電圧 12Vdc 、連続出力 350W、最大出力(3分間) 385W、サージ電力 700Wという性能です。

現在、「発蓄電ポール」は、本業のビジネスパートナーである風憩セコロさんに製作をお願いしており、基礎にはsaiブランドの螺杭を使用します。 新規事業のオフグリッド分野にも、本業の技術を導入し、更なる進化を目指していきます。

環境性能を測る

皆さんが旅行に出かけた時、雨でどんよりとした天候だとしたら、その地の印象はあまりよくないものになってしまいます。晴天の下で体験したかった理想のアクティビティーが台無しになってしまうかもしれません。そうならないためにも、その地の季節や天気の動向を予測し計画をしたいものですね。

この予測には過去のデータから積み上げた統計が重要になります。温度、湿度、降水量等が季節の変化を肌で感じる数字となります。当地では オフグリッド生活を体験できるテントサイトだけでなく、本業である木製構造物の耐久性を検証するため、いくつかの環境観測機器を導入しています。ここで蓄積しているデータは、オフグリッドを計画する上でも大変重要なものとなるでしょう。日射量や風速など、自然が発するエネルギーを使わせていただくには、その量や質を把握しておく必要があります。今回は、ここで計測している環境測定機器をご紹介します。

NETATMO ウェザーステーション

Netatmo ウェザーステーションは、屋内外用2つのモジュールで気温や湿度、CO2濃度などから屋内外の空気質を評価するアプリケーション連動型ウェザーステーションです。観測データには、PCやiPhoneから簡単にアクセスでき、リアルタイムで情報をブラウズできるだけでなく、そのログデータが蓄積されています。

現代版百葉箱(京都大学大学院農学研究科)

京都大学大学院の藤井義久教授にご提供いただいている機材です。日射量ロガー、紫外線ロガー、そして
温湿度ロガー。地表から2m程度の高さに各種のセンサーを設置し、日々、データを集積しています。日射量と紫外線量は、木製構造物へのダメージを与える大きな因子で、これを測定し、暴露試験体の劣化度との相関を分析します。

実際の暴露試験体の含水率を測定しています。毎月末に測定をしていますが、わずか1か月で倍、半分の変化が計測されることもあります。 これを日々の湿度データと比較することで相関を見ていくわけですが、 木材を人間の体だとすると、これだけ環境の影響を受けていることになるのです。

これらの蓄積したデータを分析することにより、「電力からのオフグリッド」の重要な要素である「自然エネルギーによる発電手段」を計画していきます。今のところ、太陽光(日射量)の利用はもちろんのこと、常に風が吹いている環境なので、風力発電も併せて計画していこうかとも考え始めました。

このように「環境」を「数値」として測ることができます。この数値をどう蓄積し、どう読むか。
本業である木製構造物の耐久性の検証や、新規事業であるオフグリッド事業の発電手段の検討など、環境を測ることで、どっぷりと地球と共に生きているという感覚を覚えています。