vol. 20 「港に辿り着くこと」

船首には等身大のアメリゴ・ベスプッチが水平線の彼方へいざなう

 2年に一度、ハワイ周辺海域で実施される環太平洋合同軍事演習(RIMPAC)が終わった。発表によると参加したのは29カ国、艦艇40隻、潜水艦3隻、航空機約150機、人員2万5000人と桁違いの大規模だった。日本の海上自衛隊から護衛艦「はぐろ」や輸送艦「くにさき」、対潜哨戒機も訓練に加わったが、中でも訓練の指揮を執るアメリカ海軍の原子力航空母艦「カール・ビンソン」は、乗員3400名、航空団2500名、司令部100名、約6000人を乗せサンディエゴからやってきた。排水量10万トンを超える空母が狭い真珠湾へ入港する雄姿はまるで映画のワンシーンを見ているようだった。およそ一か月にわたる公海上での軍事演習に加え、沿岸の攻防を想定した上陸訓練やジャングル侵攻、災害を想定した救難救急、さらに気象学や海洋学シンポジウムなど多岐にわたる演習や訓練を終えた兵士たちは再び艦船に乗り組み、三々五々、真珠湾を後にしていった。

 時同じく もう一隻、 イタリア海軍の船がピア9に接岸した。将校16名、下士官70名、それに水兵を合わせ約200人が乗船した練習帆船の名は「アメリゴ・ベスプッチ」、そう新大陸の発見者であり、彼の名からアメリカという地名は付けられた。この船は1931年の就航以来、イタリア海軍の全ての水兵が士官候補生として訓練を受けてきた由緒ある歴史を今日に紡ぐ。今回は2023年7月にトリエステを出港して以来、欧州から西アフリカ、南米大陸を反時計回りに各港を経由し、ロサンゼルスから約二週間かけてやってきた。ホノルルには一週間の停泊後、次の寄港地、東京まで約一か月かかるそうだ。イタリアへ戻る2025年2月まで、一年半以上の地球一周の航海訓練が続く。まるで15世紀の大航海時代を彷彿させる。

 三年前、再生可能エネルギーのみを使って航行するフランスの「エナジー・オブザーヴァー」がサンフランシスコから20日間かけて機帆走してきた。太陽光・風力の再生可能エネルギーや海水から生成した水素を燃料に用いる世界初の「自立エネルギー型燃料電池船」だ。去年の今頃、トランスパック・ヨットレースに出場した私の旧友チャーリーは、 風を読み帆を操り、 ベネトゥのモノハル艇でロサンゼルスから7日間で帆走してきた。なかなかのツワモノだ。

 空母からヨットまで船の大小あれど一度港を離れるとオフグリッドとなり、どんな状況であれ次に寄港するまで諦めるわけにはいかない。それには飲料水や食糧、船を走らせる動力と燃料の確保、さらに正確な航海術が必要なのだ。順風満帆の日ばかりではあるまい、波瀾万丈な時もあろう、キャプテンもクルーにも判断力と忍耐力が要求される。

「アメリゴ・ベスプッチ」の艦橋にイタリア語でモットーが刻まれている。            

Non chi cominicia ma quel che persevere

「先陣を切る者より、最後までやり遂げる者であれ」と訳する。 そう、作戦をやり遂げるまで、そして港に戻るまで諦めるわけにはいかないということか。 なるほどオフグリッドは生半可な気持ちで向き合ってはいけないんだと改めて思った。

投稿者: Taka

これまで百数十か国を訪れ、欧米7か国で20年暮らしてきた。メーカーに30数年勤め、縁あって今はハワイ在住。グローバルな生活から一転、ロコとして生きる。 座右の銘は、Life is a journey, not a destination. (人生は旅、その過程を楽しもうじゃないか)