クラシック チャレンジ


パネライ(PANERAI) 「パネライ クラシックヨット チャレンジ 2017」開催 | ブランド腕時計の正規販売店紹介サイトGressive/グレッシブ

高級時計メーカーのパネライが「パネライ・クラシックヨット・チャレンジ」というヨットレースを主催していた。華麗な木造のヨットが300隻以上集まり、カリブ海、米国東海岸、英国など様々な地で開催されていたようだ。最近は分からないが、2018年までは開催されていたようだ。船齢100年を越える船たちの帆走する姿は優美という以外の形容は難しく、古き良き時代を思い出させてくれる。

時計メーカーのこのような取り組みは意義が大きいと感じる。クラシック=時の経過とすれば、その時を正確に刻む時計の役割は分かりやすい。
パネライのアンジェロ・ボナーティCEOは、クラシックヨット・チャレンジについて「それはパネライにとっての好機だった。パネライは海から生まれた。だから我々は海に留まり、海の持つポジティブな面を生かさなければならない。そう考えると、我々がパネライというブランドをプロモートすべき場所が見えてくる。クラシックヨットこそはまさにその場所だった。なぜなら、そこには人間の歴史が凝縮されている。我々が長い目をもって投資する理由はここにある。船に興味を持たない人でも、木で造られた美しいヨットには心を奪われる。それは歴史が夢を見させてくれるからだ」と語っているそうだ。
船だけでなく時計もクラフトマンシップを代表するような品物だ。良いモノを作り続けるのは難しいものだ。激変する時代を乗り越え、消費者の価値観にブレないものをアジャストしていくのは技術的にも経営的にも本当に難しいことだと思う。

saiブランドでは、オフグリッド事業のフラッグシップとして1988年製の古いヨットのレストアに取り組んでいる。パネライ・クラシックヨット・チャレンジの出場艇に比べればまだまだ取るに足らない船齢だが、36年前の船だ。船内のレストア作業ではチークの無垢材の品質に驚かされる。湿度の高い船内で狂わずそこに居続け役割を果たしてくれている信頼性と存在感は、現代の構造材に木目シートを貼ったそれとは明らかに違う。チーク材はインドから東南アジアが原産の落葉高木で、世界三大銘木として知られ、古くから客船や高級列車の内装や高級家具、床材として使われてきた。世界的に人気の木材だが、現在では多くの地域で伐採が禁止され、流通が激減。入手は容易ではなく、代替えとなる新素材が台頭し「本物」は姿を消しつつある。一見、本物に見える素材も金属であれば合金化され純度が落ちる。木材であればリアルに凹凸を再現したシートで全く別物だ。このような代用新素材の方が機能的である場合も多いのだが、時を経た信頼感と存在感は皆無で、新素材は出来上がった時が最も美しく、経年と共に劣化をしていく。身近な例を挙げると住宅が分かりやすいだろう。昔からある日本家屋は木材や土といった天然素材が多用されているため、時を経ると「深まる」。一方で現代の住宅は新築時はキレイだが、新素材が多用されているため、時を経ると劣化が進む。もちろん天然素材を「深める」ためには適切なメンテナンスが必須でそれなりの労力と愛情が必要だ。

ヨット・モーターボートの雑誌Kajiの5月号に「クラシカルヨットの調べ」という特集があり、興味深く読んだ。そこに上手にまとめられた言葉があった。
「所有しているのではない。つかの間預かり、継承する役目」
これは精神論だが、現代では入手が困難な素材や当時のクラフトワークを次世代に継ぐための今。と考えれば得心できる。実はその「今」が大切で、ヨットであれば海に出る楽しさ、家であれば寛ぎなど、モノ本来の目的を果たせるように手をかけ(メンテする)ながら、それを受け継ぎたいと感じてくれる次の世代と価値の共有ができればよりよい状態で引き継がれ、そしてクラシックとなっていく。

このサイトは旧友TAKAとの共筆だが、毎回、打ち合わせなしの不定期で書いている。お互い東京から沖縄、ハワイへと移住し、そこで見聞したことをそれぞれのメガネを通し何となくオフグリッドというテーマに合うものを書いてきた。当初は各地のオフグリッドの要素技術や自然の力を利用した住まい方などを紹介しようと始めたのだが、最近の記事を読み返すと「温故知新」や「もったいない」や「生き方」などがサブテーマにあるような内容が多い。海外勤務の長かったTAKAの記事は、それをワールドワイドな視点で見ていて面白いので、このまま打ち合わせなしで続けていきたいと思う。
そんな我々がこのサイトでお伝えしたいことは、現代において経済ばかりを優先したモノづくりや、見せかけだけの「安全・安心」を謳う世の中では地球環境は悪化するばかりで、一歩立ち止まって振り返り、未来に何を継承していくかを考えたいということなのかもしれない。6月にTAKAがハワイから沖縄へやってくる。このことについても話をしてみよう。

投稿者: YUKI

株式会社saiブランド代表取締役。 30年前、オーストラリアで木橋に出会い、自然素材の可能性に魅せられる。 木橋やボードウォークの設計や、木製構造物の診断などを手掛けている。 2020年8月に本社を東京都墨田区から沖縄県糸満市名城に移転し、「オフグリッド」に事業として、ライフスタイルとして取り組んでいる。