vol. 16 「ゆったり暮らす」

雨季で付近は洪水し停電した。水面に映る青空と我が家に見惚れるココロの余裕が必要。

 人生でだいたい四回の引越しを経験するらしい。それは結婚や転勤、マイホーム取得など人生の節目にあたることが多い。かくいう私も転勤に伴って数十回と引越しを繰り返しいつも借家住まいだ。その度に子供達は転校を余儀なくされ、国をも跨いできた。任地には必ずIKEAがあって品番を覚えられるほど同じシリーズを買い求め、組み立てた本棚に蔵書が収まるとそこが我が家になった。さすがに東京に戻った時はサイズが合わずニトリで揃えた。どれも手頃な価格でその時々に生活スタイルに合わせた暮らしを手っ取り早く手に入れることができた。駐在の場合、前任者から譲り受け後任する人へ譲り渡すモノも多く、そうやって天下の回りモン的生活を送ってきた。学齢期の子供が居るとデスクやカウチ、パソコンも必要だし、電圧が変わると家電も買い替えなくてはならず出費も大きい。それに新学期が始まるまでに用意しなくてはいけないので時間にも追われ、便利をオカネで買うことになっていた。

 ハワイへはパンデミックの中、赴任した。職場が大学ということもあり、ひとまず学生寮で寝泊りしながら仕事に就いた。すでに子供達は成人し米本土で暮らすようになったので焦ることはなかったが、いつまでも学生寮に居候するわけにもいかない。何よりも寮はアルコール禁止なのが私には辛かった。ホノルルの町以外、森か海か軍の施設しかない島暮らしなので住宅事情は宜しくない。苦労して見つけたのが今の平屋で、高い家賃の割に造りは安普請で今どき見なくなったジャロジー窓だ。ルーバー窓といったほうが伝わりやすいか、細長い何枚もの板ガラスが重なり、ブラインドのような構成となっているアレだ。昔、風呂場の窓がそうだった。角度を変えることで換気が出来るが、断熱性が悪く防犯上も宜しくない。それに横のルーバー窓に縦のブラインドは風が吹くとカタカタうるさい。利点といえば、割れた板ガラスを一枚でも替えることができるくらいだ。

 その平屋暮らしも2年が経った。最初のうちは コットと呼ばれるミリタリーで使う簡易ベッドに寝ていたし、キッチンがバーカウンターのように延びているので食事にも困らなった。これまでのように引越荷物を送るのも面倒だと思っているうちにお決まりの本棚はe-bookに置き換わった。 やがて近所のガレージセールを物色するようになり、お隣りさんの引越しを手伝ったらカウチやテーブルをもらった。センスのいい食器もニュージーランドからやってきた老夫婦から戴いた。最近の「目っけモン」は、ダイソンの掃除機で、掃除機を掃除するのが嫌になったという米兵から譲り受けた。分解掃除をしてみると、なるほどペットを飼っていたのか絡まった毛を掃除するとすぐに使えるようになった。こうして家電や家具がほぼ揃った。都会暮らしはせわしい。元来、やらなくてよいことでもやらなくてはならないと思い込んでいたのかも知れない。時にはゆったりと成り行きに任せると回りモンに出会える。

投稿者: Taka

これまで百数十か国を訪れ、欧米7か国で20年暮らしてきた。メーカーに30数年勤め、縁あって今はハワイ在住。グローバルな生活から一転、ロコとして生きる。座右の銘は、Life is a journey, not a destination. (人生は旅、その過程を楽しもうじゃないか)