小さなグリッドでの暮らし

ここから徒歩2分の距離に広い芝生の公園がある。公園といっても遊具などはなく、東の端に東屋とベンチがあるだけの簡素なものだ。
土地を購入し、社屋兼自宅を計画していた頃、沖縄出張のついでによく土地を見にきたのだが、その時に見たこの公園の印象がすこぶる良かったことを記憶している。今思えば、住人が行う年に2回の地域清掃で、草刈りが終わったばかりのきれいな状態に出くわしたのだろう。近所にこんなに広い芝生の公園があるのことをうれしく感じたものだった。しかし、その後、世界中にコロナウイルスが蔓延し、世の中のあらゆる活動がストップした。僕らは地鎮祭に出たきり、建設中に現地を訪れることはできなないまま建物の完成を迎え、 2020年8月に東京からこの場所へ引っ越しをしてきた。

荷ほどきや整理を行っているうちに2週間のステイホーム期間が終わり、犬たちと近所を散歩した。真っ先に行ったのが好印象を持っていたこの公園だが、そこは背の高い雑草に覆われ、かつて見た広い芝生の公園ではなくなっていた。そう、コロナ禍で人々は外出を控え、公園を利用する人さえおらず、当然、メンテナンスもされていなかった。お気に入りの公園が雑草に覆われた状態を目の当たりにし、ボランティア精神がふつふつと湧いてきた。東京時代、近所の川をカヤックで清掃し、近隣の方々にカヤック体験をしていただくボランティア団体を主宰していた経験もあり、この公園の維持管理をボランティアで行うことを決め、市役所、自治会に許可を得て自主的に活動を始めた。

村誌によると、その昔、この公園は馬場だったようで、東屋の隣にその旨が刻まれた石碑があった。草払い機で背の高い雑草を切り倒していくと、いくつかのステンレス製の架台のような物体を発見した。どうやらこの公園で近隣の人々がグランドゴルフを楽しんでいたようだ。コロナウイルスが落ち着きを見せはじめると、7~8名のおじぃたちが毎週土曜日に集まり、 賑やかにグランドゴルフを楽しんでいた。あえて挨拶にはいかず、遠巻きにおじぃたちの姿を眺めていたのだが、ここで少しいたずらをしてみようと思いついた。芝の表面を芝刈り機で平滑に仕上げていくのだが、刈り高を変えて、グランドゴルフのコースをつくってみた。おじぃたちへの挨拶がわりの挑戦状だ。この頃には人づてで「移住者が草を刈ってくれている」という噂が広がっていて、見知らぬ人からお礼を言われたり、食べきれないほどの野菜をいただいたりと、この村の一員に加えていただいた実感が得られた。こうなると連鎖は続く。近所の公園をキレイにしようと草刈りをする。すると「いつもキレイにしてくれてありがとう」と野菜や地域の名産をいただく。僕らは何もお返しできるものを作っていないので、労力でお返しする。という嬉しいループ(連鎖)だ。最近は、太陽光を餌にした草刈りロボット「ホヌ」が週1回のボランティアで公園の草刈りをしてくれている。

この海辺の小さな田舎町。古くからある住宅は例外なく、間口が南に向いている。南に面していない土地の場合は、南側に進入路をつくってでもかたくなに南入りを守っているのだ。我々は当初は建物の間口を海(西)に向けて計画していたが、ある日、グーグルアースで上空からこの村を俯瞰すると”例外なく”住居は南を向いて配置されていることに気づき、建物を90度回転させ、配置しなおしたほどだ。その理由は移住後に知ることになるが、沖縄は春に風が北から南に変わり、暑い季節は南風が恒風として卓越する。長く張り出し日陰をつくる赤瓦の軒下から、この南風を呼び込み、北に抜くことで家の中は快適に過ごせるという地域の知恵なのだ。この小さな村も上空から見るとグリッド(格子・方眼)が形成されているのが分かる。しかも規則的に南を向いたグリッドだ。
人混みや渋滞から逃れるように東京からオフグリッドしてこの地へ来たが、ここにある小さなグリッドは快適そのものだ。