台風へ備えた設計

On 04. 08. 2023 by sai1525

saiブランドという会社は、海際や水辺でも耐久性の高い製品を提供していくことを製品開発の柱に据えてきました。海際や水辺の製品には陸上では考えられないような事象が降りかかります。例えば「波浪」がこの代表格です。台風で荒れ狂った海が生み出す波、波の発生源は風です。はるか遠くに台風があり、そこで発生した波がその進行とともに成長(他の波のエネルギーを吸収し大きくなる)、淘汰され、大きなエネルギーを蓄えた長周期の波ができます。これが周期内の浅瀬エリアに進入するとエネルギーがさく裂するのですが、これを「砕波」といい、波が崩れる様子を表現する専門用語です。一方、近くに低気圧や台風があり、強風が発生してできる波は短周期の波で、ひとつの波のエネルギーは長周期の波と比較し小さいのですが、方向に統一性がなく、とにかく乱打するような波です。

長周期の波といえばハワイのノースショアの画像が浮かびます。このハワイに届く波は、実は日本付近で波の素が作られているのです。 日本で冬型の西高東低の冬型気圧配置が強まれば強まるほど、そこで発生した短周期の波が、長い時間をかけて成長し、ハワイに到達した際に、一気に海岸で大きな波となってブレイク(砕波)する、これがハワイ・ノースショアの波なのです。あのビッグウェーブの素が日本近海で生まれた低気圧からできているなんて、面白いですよね。

今回は沿岸の構造物を設計する際に必要な短周期の波への対応のお話です。前述した通り、短周期の波は低気圧や台風の接近により発生する強風(暴風)が発生源です。近年でも関空連絡橋へタンカー船が衝突する被害や、熱海のリゾートホテルを高波が襲う被害などが記憶に新しいと思います。

衝突したタンカー
台風21号の暴風で関空連絡橋に衝突したタンカー(2018年9月4日)=近畿地方整備局提供

saiブランドではこれまでの経験から、風や波という構造物に作用する大きな外力(エネルギー)をいかに逃がすかという設計に取り組んできました。その代表作がスリットデッキシステムです。水上に張り出したデッキの下から波を食らうことを想定した、揚圧力を逃がすデッキです。グレーチングをデッキ構造で実現したようなデザインなのですが、この効果はてきめんで、2011年に沖縄県本部港渡久地地区に設置した施設は、2023年現在、設置後10年以上経過しましたが、何の被災も受けていません。

この効果を図るため、断面水路を用いて、揚圧力の軽減率を想定する実験を行いました。結果、通常のデッキに対し、護岸の形状や波力の条件にもよりますが、波力低減率は11.8%~38.5%という結果を得ることができました。
※スリットデッキの詳細はこちらからどうぞ。

本部港のスリットデッキのデッキ構造は被災はしていないのですが、これまでに数度、転落防止柵の縦格子パネルが被災し、交換した経緯があります。これは波ではなく、漂流物のアタックによるものだと推測されます。台風で流されてきた防舷材などの浮遊物が波浪とともに柵を打ち付けたのでしょう。当時、これを想定し、発注者にはワイヤー柵を提案したのですが、利用者の安全性を優先し、縦格子のパネルが採用されました。設計者としては残念な思いだったのですが、これは管理者の意向を叶えるのも大切な仕事なので、致し方ないですね。

本部港の事例から4年後の2015年に、同じ沖縄県の与那原マリーナに転落防止柵を納入、設置しました。これは、本部港の縦格子の転落防止柵の被災を経験に、ワイヤー式の製品を提案設計したという経緯があります。上の写真は新設時の状態です。そして下の写真は一昨日のマリーナの状況です。

台風6号により、非常に強い東風が吹き付けたマリーナでは、沈没艇が4隻、隣り合う船と衝突し、船体に穴があいたりこすれたりした艇多数という大惨事を目の当たりにしました。そんな状況にありながら、ワイヤー式の転落防止柵は、ワイヤーに海藻類が絡んでいるだけで、被災はありませんでした。しかし、コーナー部に侵入防止を意図に2スパンだけ採用された縦格子柵は見事に支柱の根本から倒されていました。この写真1枚で、海辺におけるワイヤー柵の優位性が伝わると思います。

もちろん縦格子の方が、こどもの頭が入らなかったり、人に対する安全性は高いのは言うまでもありません。しかしワイヤー柵も転落防止柵の安全性の基準を満たしていますし、景観性が高いのは言うまでもありません。冒頭に書きましたが、saiブランドとして、海際の構造物を設計する場合、これらの経験を活かし「自然の力に逆らわない」という発想で、これからも提案を続けて行きたいと思います。

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